和風庭園か、洋風庭園か?
「土屋さんの庭は和風ですか?それとも洋風ですか?」と、聞かれることがあります。私が茶道をしていることを知ると「土屋さんは和風ですね」と、言われることもあります。和風庭園と言えば松があって石灯籠があって・・・・と、あるイメージが頭に浮かびます。また、洋風と言えばレンガ花壇に花が一杯という景色があります。質問してくださった方の頭に浮かんでいるかもしれないこの景色を、まず打ち消すことから始めなければと思いつつうまく伝えきれないことが多いので、今回はこの場でお答えすることにします。
まず、庭は誰のものであるかをはっきりさせる必要があります。もちろん持ち主ははっきりしていると思いますが、誰のための庭であるかというと、答えは一つではありません。そして、何のための庭であるかということも考えると答えは様々になってきます。考えやすい例としてひとつ挙げると店舗の庭があります。この場合その庭はその店のお客様のためにあり、そのお客様を楽しませるという、かなり明確な方向性があります。店舗といっても様々ですから一概には言えませんが、お客様を楽しませるためには、日常というより少しよそ行きの雰囲気を持たせ、ある程度“魅せる”ことの出来る庭が求められます。魅せる庭ということでは芸術性を追い求めた庭というものもあります。これは見に来た人のためか、作った本人のためのものか、判然としない時もありますが、この庭も方向性ははっきりしています。全国にある名勝と呼ばれる歴史的庭園の多くはここに分類されるでしょう。浄土形式と呼ばれる京都の浄瑠璃寺や奈良の大乗院、武家の作った三重の北畠館跡などは私も好きな庭園です。これらは作った当初に今で言う芸術をどこまで意識していたかはわかりませんが、その規模と歴史的価値から現代においては芸術の範疇に入れていいと私は思います。これら店舗の庭と芸術的な庭は個性が強く、評価対象にもなりやすいので、庭というとこういった庭を思い浮かべてしまうのですが、数でいえばむしろ小数で、多いのは住宅の庭です。ですが、この庭は多くの人が関わるわりには話題になりにくい。それは、多様であるということと、私的なものなので公には語りにくいという側面もあります。しかし、私の仕事の範囲は住宅の庭が多いので、この庭について思うところをつづってみます。
店舗の庭 galrie そう(奈良市)
芸術の庭 北畠館跡(三重県)
住宅の庭で大事なこと
1)住む人のため
もう一度、今度は住宅の庭は誰のものか、何のためにあるのか、という問いに戻ります。私邸の庭ですから、誰のものかは明らかですが、何のためにあるのかというとはっきりと答えにくいのがこの庭の特徴です。バーベキューをするため、草花を楽しむためといった、具体的な回答では答えきれないものがあります。もっと素直に、もっと簡単に答えるとすれば「住む人のためにある」と、なるでしょう。当たり前のことで、面白くも何ともありませんが、色々庭をみるなかで、ここはもっと大事にするところではないかと感じます。住む人のためにあるのだから、住む人が好きなようにすればいいのです。お客様を大事にしたければ店舗のように少し魅せる要素を取り込めばいいですし、外の目を完全にシャットアウトして家族専用にしてもいいのです。自分のものですから、誰に気兼ねもいりません。話は少しそれますが、以前に集合住宅の庭の整備を検討する機会がありましたが、住む人が定まっておらず、家主とも接点がなかったため検討が進まずに困ったことがあります。使う庭なのか、眺める庭なのか、歩行箇所はあったほうがいいのか不要なのか、植栽の量、樹種など。考えが一つも進まないのです。こういうことは住む人と対話するなかで決めていくものです。具体的な指示はなく“おまかせ”であっても、そこに住む人が定まればその庭の方向性は見えてくるものです。ここがなければ私が方針を決めて作っていきますが、それは住む人の庭ではなく私の庭です。しかし、私はそこに住まないのでどこか所在の定まらないところになるでしょう。庭づくりにおいて、そこには庭師の思いが反映されますが、その思いが住み手と共有できているかは常に考えなければならない大事なことです。
2)その土地のもの
もうひとつ私が大事だと思うのは、その場所特有の事情をよく理解することです。まずは、家の雰囲気。キチッとした家か、柔らかい印象の家か・・。キチッとした家にはキチッとした庭が合うとは限りませんが、庭と家は一体のものなのでバランスは重要です。それと、その土地の状況。周囲の環境、広さ、地形、日照など。こういった環境の条件を取り込んでいくと、その場所特有の庭となり、控えめではありますが個性豊かな庭となっていきます。
何でもない庭
前述のことを踏まえて私は庭づくりに取り組んでいます。排水から始めて、地形、石、植栽と進めていく中で、違和感のあるものを排除していきます。違和感のあるものとは目を引くものです。不自然な地形、変な石組。こういうものをなくして、あるいは目立たないようにと色々苦労していくと、これといって目の定まらない庭になっていきます。これを自然な雰囲気の庭と評価してくださるのが私にはとても嬉しいのですが、私自身はこっそり「何でもない庭」と呼んでいます。色々と苦労して取り組んで、最後にようやく何でもない普通の庭ができたと。こう思えたときが、私なりの完成のポイントではないかと思っています。
住宅の庭 T邸(奈良市)