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土屋作庭所通信 平成26年 初夏号

通信は年に二回発行してお客様に手渡ししています。
今号は自宅の庭の変遷についてまとめました。
紙面が足りずなかったためブログにも掲載致します。


「好きなようにやったらええ」
とても立派な住宅街で自分には似合わないと思いつつも、平屋のたたずまいに魅かれてここに住んでもう9年経ちました。それまで住んでいたところが何かと手狭になってきて新たな物件を探し始めて半年。ようやくこれぞという家に巡り合えました。庭のある家ということも条件の一つでこの家には庭がありました。どんな庭でも良かったといえば語弊がありますが、仕事柄庭のある家に住むのが本筋だろうという思いはあったのです。そして、庭の世話はもちろんするけれど、できれば少しいじってみたいという希望もありました。大家さんと初めてお会いして、だいたい話がまとまったので「この家の庭を少し変えてもいいですか?」と、たずねたところ「あんた、庭の仕事しとるんやろ。好きなようにやったらええ」と。この一言から我が家の庭づくりが始まったのです。

一次改装
最初の状態は日本庭園風といえばよいでしょうか。松、マキやシュロまであり、その周辺にサツキとツゲの丸い刈り込みがところ狭しと植わっていました。まず、この刈り込みを何とかしなければならないと思っていましたが、これら刈り込みの向こうに石があるとは最初は気が付きませんでした。当初はそれほど繁っていたのです。まずは、この石と刈り込みの整備から始めました。石は1.5mほどのものが二つ。とにかく見通しよくすっきりとした庭にしたかったので、この石の使い方には迷いました。庭の面積にしては不釣合いなほど大きいのでどうしても目立ってしまうのです。立てれば鬱陶しいし、寝かせたとしてもうるさいに違いない。搬出するのも大仕事になるのでどうしようかと考えて、結局一つの石は埋めることにしました。完全に埋めてしまうのではなく、なるべく平らな一面だけを地表に出して大きな飛び石のようにしてほとんど隠してしまうことに。そして、もう一つは寝せてなるべくおとなしく据えようと。やってみるとこれがうまくいきました。埋めた石は面が見えても大きさを感じないので存在感はほぼなくなり、もう一つも寝せてだいぶおとなしくなりました。刈り込みの植木は、移植して透かし仕立てにしました。これで、広さと見通しが確保されて、まずは良しというところまで進みました。
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引越し直後の様子。 植木が繁りすぎていました。

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一次改装後 石と木の配置換えで広くなりました


二次改装
次は門の周辺です。門は玄関のほぼ正面にあり、これがお向かいの玄関と向かい合わせになっています。ガラッと開けるとお向かいと目が合うこともしばしば。仲良くして下さるので別に問題はないのですが、見え過ぎるのも情緒がないので簡単な目隠しが欲しいところ。一本植木を植えれば済むのですが、玄関から門は鉄平石で造られた階段があって土がありません。この階段もいいのですが、やや味気ないという気持ちもあったので、この階段周辺の改装をしました。
既設階段の幅は広く、歩くだけならこれほどの広さはいりません。つまり、歩くのに必要な幅の階段を中央に作ればその両脇は空いたスペースができる。ここに木が植えられます。階段の素材は塀に合わせて大谷石とし、更に鉄の門を自作の木製に付け替えました。
この改装工事の変化は大きいものでした。外からの印象、内からの印象共にとても柔らかなものにかわりました。毎日通るところですからその変化を日々確認したということもあるでしょう。
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当初の門の様子。 広いですが木を植えるところはありません。

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二次改装後 木製門と緑で柔らかな雰囲気になりました


三次改装
二次改装で思いはほぼ達成されたと思っていましたが、門周辺が変わってきたら、一次改装した庭が気になってきました。広くはなったものの、雰囲気は以前と大きく変わりません。庭の雰囲気は樹木で作られるもので、ここには当初からあるマキが鎮座しています。マキは庭木として重用されていますが、当家の庭は柔らかで自然な方向に進んでいたのでどうも合わなくなってきていたのです。どうしようかと思っていたところ、同業者が引き取ってくれることになり、これをきっかけに三次改装に踏み切りました。
今回は主に植栽による改造です。私は山野草が好きですがこれらの草は一般に日陰を好みます。この陰を作るために高木落葉樹を選びました。アカシデとメグスリノキです。この二本を中心としてツリバナやナツハゼ、イボタノキなどを植えました。あわせて庭に接していたブロック塀を板塀で隠すと景色が門からつながりました。
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現在の庭の様子。大分落ち着いてきました。


その後
「庭はどう作ったかというより、どう管理していくかの方がより大事」とは、私が常々思っていることですが、これがよく現れるのが地面です。簡単に言えば草の管理です。
改装直後の地面といえば土一色の味気ないもので、雑草の緑が目に優しく抜くのをためらうほどでした。それが、一二年で苔が薄っすらと生えてくると、雑草への愛情も薄くなります。かといって全ての雑草を抜くかというと、それも大変なことで、私の場合、目に付いたものを抜くという感覚でやっています。それも、まとめて一度にするよりは、少しずつ長く。やっていて思うのは雑草にもブームがあるのかな、ということです。ある年はスズメノカタビラが多いかと思うと、翌年はツメクサ、次はコニシキソウといった具合。感覚的なものですが、私には気がつかない庭の変化を草から感じることもあり、面白いものだと思っています。
こう振り返ると庭とは生長して、変化していくものだということを改めて感じます。私自身の造作による変化はもちろんですが、小さかった木が大きく鬱蒼としてきたり、大事にしていた草がなくなり、脇役が主役になっていたりと様々で、中々思うようにはいきません。でも、自然と人間の間で右往左往する庭師という仕事に愛着を感じるようになってきています。




by tsuchiyasakutei | 2014-07-05 22:21 | 通信

自分なりのお茶、そして現代のお茶って、どんなだとしっくりくるだろうか?


by 土屋裕
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